
きっかけは奈良市立一条高校がおこなっている『よのなか科』の中で"制服を考える"をテーマにした授業の際に学生服メーカーとして瀧本(株)にお声掛けいただいたことからでした。
それに合わせて藤原校長のフォーマルウェア(礼服)をつくり上げるプロジェクトを立ち上げ、フォーマルな場所に相応しい礼服を作成をすることになりました。

制服メーカーである瀧本(株)は今回の礼服のベースとなった詰襟(学ラン)制服はもちろん、全国で主流となっているブレザー制服も多く扱っています。
制服の歴史説明から始まった授業でしたが、自分たちに身近な制服の授業とあって制服の必要・不要論や制服の意義についてなど授業内では多くの意見が上がりました。
実際にこのプロジェクトを進めるにあたっては藤原校長とのヒアリングを重ね、デザイン・素材・設計などを検討していくことになりました。
デザインは詰襟制服(学ラン)のデザインをベースに現代風の洋装デザインも合わせ、奈良に古来から伝承されてきた色使いなどをちりばめた全く新しいフォーマルデザインをテーマに進んでいます。
服作りに欠かせない素材もサンプル作成の段階からこだわりをもって選定しました。
奈良時代の貴族衣装や洋装の礼装であるモーニングコートなどにも通ずる色づかいや柄づかいを検討していく予定です。
こだわりはデザインだけにとどまらず、設計にも及びます。
瀧本(株)のプロダクトマイスターを迎え、藤原校長の採寸を行いました。
体のひずみや傾きを計算し、着心地の良さも追求した仕上がりを目指します。



授業内の「日本に制服としての装束が定着したのは奈良時代」という説があったように、その時代の中心地でもあった奈良でこのフォーマルデザインプロジェクトが立ち上がったのは何かの縁があるのかもしれません。
日本人の多くが式典の中で洋装の礼服を着用することへの疑問を感じる藤原校長。
ネオジャパネスクなデザインの正装を<ichijo>と名付け、このプロジェクトを通じて新しいフォーマルウエアが一条高校が掲げるフロンティア精神と共に奈良から発信されることを楽しみにしています。

いよいよ完成に向けて仮縫いが行われ、藤原校長に試着して頂きました。
”仮縫い“は素材や付属の選定を終え、実際の生地で作り上げられたサンプルをご本人のサイズにぴったり合うように修正する作業です。

人間の体の構造は個体差があるため、どうしてもひずみや非対称な部分があります。
オーダーメイドで作り上げる今回のフォーマルウェアはその非対称な部分を補い、美しいシルエットを追求して製作されました。
いよいよ新しいフォーマルウェアとしての完成形まであと少しです。

そして、新フォーマルウェアの完成です。
公の場で着用されることが前提となる今回のフォーマルウェアは、前述したように、詰襟制服のルーツを辿るようなオリジナルのデザインです。
ご本人の満足げな表情(のはず)にもあるように燕尾服、タキシードやモーニングとは異なる全く新しいフォーマルウェアとして完成しました。
これから卒業式、入学式などで目にする機会が増えるのではないでしょうか。
昨年から取り組んできたプロジェクトもこの完成をもって終了となりました。
学生服メーカーの立場から考えると、今回のようにたった一人の為にオーダーメイドで学校制服を作ることは現実的には不可能かもしれません。
ただ、生徒たちにとって一番身近な“公の場”である学校で身に着けていく価値観は、制服が定められていても、そうではなくてもまさにオーダーメイドなのではないでしょうか。
このフォーマルウェアは、周囲には少し風変りな礼服として映るかもしれませんが、様々な価値観を持ち、またそれを周囲に伝えることのできる藤原校長ならではの仕上がりだと我々は感じています。
もしかしたら新しい学校制服のスタンダードとして“よのなか”に広がっていくかもしれない。
そんなことを思い、今回のプロジェクトの今後に更なる期待を感じます。
瀧本(株)企画開発部
2017.3月