なぜフランスは今、学校制服を導入するのか?〜世界の学校制服事情と日本のこれから

個人のお客様向けコラム
2025.06.17

駅のホームに並ぶ高校生たち。さまざまな制服姿が行き交う風景は、日本の風物詩です。制服は学校の顔であり、生徒の成長の記録でもあります。しかしふと、「この制服、ちょっと古くない?」「もっと快適だったら…」「今の多様な時代に合っているかな?」といった思いを抱いたことがあるかもしれません。

実はいま、世界各国で制服の“あり方”が見直されています。中でも注目されたのが、制服文化のなかったフランスでの導入実験です。2024年9月から、全国の約200校で制服導入が試験的に始まりました。服装の自由を重んじるフランスが、なぜ今、制服を選んだのでしょうか。

  • フランスが制服を導入する理由とは?

制服導入の背景にあるのは、生徒間の「経済格差の可視化」でした。自由な服装は、一見多様性を尊重しているように見えて、実は家庭の経済状況やブランド志向などがはっきりと表に出てしまう。そのことで、無意識の優劣意識や疎外感が生まれてしまう。そうした現実が、フランス社会でも問題視され始めたのです。

制服を着れば、出自や家庭事情が外見に表れにくくなる。生徒同士がフラットな関係を築きやすくなる。教育の場において、そうした「公平さ」を保障するツールとして制服を見直す動きが出てきたのです。

もちろん、導入はすんなりとはいきませんでした。当初予定されたよりも参加校は少なく、補助金の継続性や、宗教・ジェンダーとの兼ね合いといった課題もありました。それでも「制服は伝統ではなく、変化に適応する道具」という価値観の転換が、多くの教育関係者にとって新鮮な視点を提供しています。

  • 世界各国の制服は自由で個性的!

フランスのように「制服なし」からスタートした国だけでなく、制服が根付いている国でも、今、その中身が大きく変わろうとしています。

たとえば、長い制服の伝統を持つイギリスでは、今もブレザーにネクタイという正装スタイルが基本です。しかし、最近では「男子もスカートを選べる」「暑い日はノーネクタイでもOK」など、多様性と快適さを尊重した改革が進んでいます。

韓国では、制服が一種の“青春ファッション”として文化的に根付いています。有名ブランドとのコラボ制服や、SNS映えするおしゃれな制服が人気で、生徒たちは「制服を着る楽しさ」を感じながら通学しています。

タイでは、宗教的な多様性に配慮した制服制度が特徴です。イスラム教徒の女子生徒がヒジャブを制服の一部として正式に着用するなど、信仰と教育の調和を実現しています。

アメリカでは、公立・私立を問わず制服の有無は学校によって異なります。「秩序が保ちやすい」「いじめの抑止になる」という肯定的な声がある一方で、「個性を抑えつける」とする否定的意見もあり、制服は学校の教育方針そのものを映し出す存在になっています。

オーストラリアでは、気候に合わせた実用的な制服が主流です。通気性の良い素材や、日差しを避ける麦わら帽子など、学習環境を快適に保つための工夫が随所に見られます。

さらに、インドでは、地域文化や経済事情に応じて多様な制服制度が存在します。農村部では伝統衣装を制服として取り入れる学校もあり、制服が地域アイデンティティの一部にもなっています。

南アフリカでは、国が制服費用の一部を補助する制度を導入し、教育格差の是正に取り組んでいます。ブラジルでは、明るいカラーのTシャツ型制服が多く、学校ごとに個性を打ち出して、生徒の愛校心を育んでいます。

  • 日本の制服は“未来”を着る服へ

世界では制服が「決まりごと」から「学校らしさ」や「多様性」を表す服へと進化しています。日本でも、ブレザーやスラックス、リボンの選択など自由度が増えてきましたが、ジェンダー配慮や快適性の面ではまだ改善の余地があります。ジェンダーレス制服の導入や制服そのものを見直す動きも一部で見られますが、全国的な流れにはなっていません。
制服は見た目だけでなく、教育の姿勢や学校の価値観を映す重要な要素。生徒が自分らしさを大切にしつつ、誇りを持って過ごせる環境づくりの一環として、制服はもっと柔軟であってよいはずです。制服改革は、教育の未来を考える一歩でもあるのです。

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