新しい制服と新生活

学校関係者向けコラム
2022.03.10

 もうすぐ春ですね。春と言うと卒業式や入学式のシーズンです。                                  大学生になると入学式はスーツ、卒業式には振袖や袴姿で参列する事が多いですが、中高生のほとんどは制服(学生服)姿での参列が基本だと思います。

学生達にとって制服は当たり前の様に着ている日常的なものであり、普段着の様な存在かもしれません。しかし学校制服は学校生活以外でも、冠婚葬祭のありとあらゆるセレモニーに対応可能な正装でもあります。普段着でありながら晴れ着の要素もあると言えますね。

「ハレとケ」どちらの要素も併せ持つ存在

 日本の文化では古来より「ハレとケ」という伝統的な概念があります。「ハレ」は「晴れの日」を示しており、特別な日の象徴です。その特別な日に着用するのが「晴れ着」という事になります。対して「ケ」は普段の生活である「日常」を指します。学校の制服はその「ハレとケ」どちらにも対応可能な万能選手と言えそうです。

春の新生活と言えば、イコール新しい制服を思い浮かべる方も多いと思います。新しい制服に袖を通す瞬間には、楽しみやドキドキが詰まっています。学校生活を新しく始めるにあたっての象徴的な出来事の一つとも言えるでしょう。

ところが2020年以降のコロナ禍においては入学式や卒業式が中止となったり、授業のほとんどがリモート開催であったりと、学校生活にもニューノーマルの波が訪れました。それまでの日常に比べると制服姿でいる時間は、残念ながら減っているのかもしれません。

 

ノンバーバルコミュニケーションツールとしての制服

 こんなご時世だからこそ、改めて制服の存在価値が見直されています。制服に限らず衣服全般にはノンバーバルコミュニケーション(非言語)の役割があると言われています。制服を着用する事、それ自体が他者や社会に対してのコミュニケーションの一環になり得ます。実際、学校選びの際に制服も大きな要素になっています。制服を着る事で『この学校に通う生徒です。』と言う意思表示にもなりますし、生徒を守る存在でもあります。

身だしなみを整えるという目的において、制服姿程「きちんと感」が出るものはありません。実用性・機能性も勿論大切ですが、生徒間での経済格差が表面化しにくい点や、生徒同士での一体感が生まれる事も大きな役割と言えます。

 

同質化を求めるZ世代

 そして今注目されているのが「同質化」という概念です。数十年前は制服イコール管理される事の象徴の様に思われていました。その反発であったり、個性を出す為に制服を着崩したりする事が当たり前の様に行われていました。

ところが、現在は制服の存在にネガティブな印象を持つ生徒は激減しているようなのです。寧ろ制服姿にこそ価値を見出している様です。そのヒントが「同質化」というキーワードに隠されています。

現在10~20代の若者達はZ世代と呼ばれています。デジタルネイティブであるZ世代にとって「同質化」は切っても切り離せない文化です。SNSにおけるハッシュタグ検索が象徴する独特な文化で、個性やトレンドを追いかけつつもどこか同じでありたいという特有の感覚です。まさにこの感覚に制服の存在がはまっているのです。

一見、多様性を掲げている風潮と真逆にも感じます。ですが、多様性が認められている事を前提とした上で、同質化による安心感を得たいという複雑な深層心理があるのかもしれません。ただ、それでも制服に対して肯定的な意識である事は間違いなさそうです。何かと行動に制限のかかるこのご時世ですが、制服は大切な学生生活を彩る貴重な存在です。

一昔前ですと制服姿でプリクラを撮る事が遊びの一つの様になっていましたが、今は更に気軽な形でスマートフォンでの自撮りが主流です。静止画像だけではなく、動画を撮ったりSNSにアップする事が日常になっています。その際にも私服より制服姿である事が多く、それだけ制服姿に思い入れが強い事が窺えます。コロナ禍で失われたささやかな日常を大切にする感覚が影響しているのかもしれませんね。

 

選択制を取り入れた制服のニューノーマル

 ここ数年、ジェンダーレス制服を取り入れた学校が増えています。男女問わず、スラックスやスカートを自由に選択できる画期的な取り組みです。LGBTQへの配慮や多様性への意識が根本だと思いますが、実際の導入例では意外な声も上がっています。

例えば女子生徒がスラックスを選ぶ際、『スカートよりスラックスの方が寒くないから』や『私服も元々パンツスタイルが好みだったから』等、本来想定していた以外の理由が少なくありません。男子生徒がスカートを選ぶ場合も、あくまでファッションとしての選択というケースがあります。 結果として、どちらを選ぶ生徒も浮いてしまう事無く、自然にそれぞれの選択が出来ている事は理想的ですね。

教育の場においてジェンダーレス制服の導入は、大きな決断だと思います。しかし生徒達にとっては『ジェンダーレス制服』と言うより、単純に好きなものを選べる『選択制の制服』という位置付けなのかもしれません。実際の導入例や現場の声を聞いてみると、生徒にとっては勿論、保護者や先生方にとっても良い結果をもたらしているケースが多い様です。学校制服にも多様性やSDGs等、ニューノーマルの波が訪れています。伝統や品格は保ちつつ、時代に即した柔軟なスタイルが期待されています。そう遠くない未来には、選択制の制服が当たり前になるかもしれませんね。

 時代は変われど、春は別れと出会いの季節です。その特別な瞬間を彩る制服は生徒自身は勿論、保護者や先生方にとっても特別な存在のはずです。多様性やファッション性が高まる中でも、きちんと感や清潔感・実用性は永遠のテーマです。今年の春も美しい桜と共に、新しい制服に身を包んだ凛とした佇まいがあちこちで見られる事でしょう。

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